今は昔の作品ではあるが、涼宮ハルヒの憂鬱:笹の葉ラプソディに登場する有名な台詞。
この中二病心をくすぐって止まない一文についてまとめる。
いったいどういう意味か
ゲーデルの第二不完全性定理という定理である
ゲーデルの不完全性定理と呼ばれる以下の文は、前半と後半とでそれぞれ第一、第二という2つの定理に分割して扱われることが多い。 この後半部分がタイトルの文章にあたる内容を意味している。
ある程度の有限的算術を含むどんな無矛盾な形式体系にも決定不能な算術命題が存在し(第一不完全性定理)、さらにそのような体系の無矛盾性はその体系においては証明できない(第二不完全性定理)。
(正しくはないが)ざっくり言い換えると以下のように解釈できる。
第一不完全性定理:
基本的にどんな公理系でも、真偽を決定できない命題を記述できてしまう。
第二不完全性定理:
ある体系が無矛盾であることは体系内では証明できない。(その体系の外側にある概念が必要。)
基本的にどんな公理系でも「この命題は証明できない」という命題を記述できる(第一不完全性定理の成立)
「この命題は証明できない」という命題は、真とも偽とも決定できない命題の例である。
1)実際には真だとする
証明できないので、真だと確定できない。
証明できたとすると命題が偽ということになり矛盾する。
2)実際には偽だとする
偽であれば命題の否定が成立する。
命題の否定は「”この命題は証明できない”は証明可能である」となる。
(※)「この命題は証明できない」は「”この命題は証明できない”は証明できない」でもあるため。
そうすると元の命題「この命題は証明できない」が証明可能な真の命題となってしまい矛盾。
このように、真だとしても偽だとしても矛盾が生じる。
ゲーデルは一定の手続きによって、基本的にどんな公理系であっても、この「この命題は証明できない」という命題を表現できてしまうことを示した。よって真偽を決定不能な命題が必ず存在することになる。
無矛盾であることを証明できるとすると第一不完全性定理に反する(第二不完全性定理の成立)
上述のように、無矛盾な体系であれば「この命題は証明できない」という文(ここではこれをGと呼ぶ)が証明できないことが示された。つまり、無矛盾である⇒Gは証明不可能である。
ここで、もしある体系自身が無矛盾だと証明できると仮定する。するとGが証明不可能であることも証明されることになる。そしてGが証明不可能、というのはGの示す内容そのものであるため、Gを証明していることになる。これは矛盾している。よって、ある体系自身が無矛盾だと証明できる、という仮定が正しくない。
関連する知識
ヒルベルト・プログラムへの影響
1900年頃、ラッセルのパラドックスやカントールのパラドックスなど、様々なパラドックスが発見されていった。これを背景に、地に足付いた、確実に正しいと考えてよいであろう有限の立場を定め、その上に抽象的な議論を記号化して表現することで、数学の確からしさ・安全性を守ろうとした。
しかし、ゲーデルの証明は、これが不可能であることを示唆することになった。
詳しくはwiki参照。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0
完全性とは
「完全である」とは、任意の命題についての真偽を決定できる、ということを意味する。
そのため「不完全である」ことが悪いわけではない。単にこうした性質を持たないだけである。
完全であれば、実際には真である命題なら全て証明が可能であることになる。(むしろその方が驚くべきことといえる気がする。)
笹の葉ラプソディでの意味合い
作品中では、過去と未来とで連続性があるのかないのか、行動が矛盾している、という意見に対する説明としてこの台詞が用いられている。一体どういう説明と解釈できるだろうか。
恐らくは、自身が体験したこと=正しいとみなせるもの=公理系、というアナロジーに基づくと考えるのが自然であろう。言い換えるならば「あなたが体験したことだけで辻褄を合わせようとしているからわからないだけだ」ということだ。実際、過去を改変する場合にも重要な出来事(既定事項)は遵守されており、その意味で連続性は保たれている。これは歴史を操作する超越者の立場になって初めてわかることであり、「涼宮ハルヒの消失」の終盤で見える状態に辿り着いている。だからこそ「そのうち解る」のだろう。
参考図書・Webサイト
1.不完全性定理とはなにか
超入門書。全体像をざっくり押さえるにはこちら。
https://www.amazon.co.jp/dp/4062578107
2.ゲーデルに挑む
原論文に1段落ずつ解説を入れた本。3を見てからの方が良い。私はちゃんと理解してない。
https://www.amazon.co.jp/dp/4130639005
3.ゲーデルの不完全性定理 / 証明不可能性を証明する
名古屋大学の講義動画。「簡単」ではないことも往々にある。
4.朝日新聞 数学体感教室2022
一見柔らかそうに見えるが読み始めるとそうでもない。
https://www.asahi.com/ads/math2022/
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