世界はなぜ11次元なのか:超ひも理論(3)

物理学

超ひも理論をざっくり理解

どんな理論なのか

前回の大統一理論では、電磁力・弱い力・強い力の3つまでを統合しようとしていた。超ひも理論は、これらに加えて重力も統合できる理論の候補である。なお、”ひも”でなく”弦”と呼ぶ方が一般的ではあるようだが、本稿ではこのままひもと呼ぶ。

超ひも理論では、あらゆる物質を作っているのは点粒子ではなく振動する微小な”ひも”だと考える。同じひもなのだが、どういう振動をしているか次第で(少し離れて見たときに)どのような素粒子として振る舞っているかが変わる。例えば、閉じたひもは重力子(グラビトン)として振る舞う、ある振動モードの開いたひもは光子として振る舞う、という具合である。

ひもの長さはおおよそプランク長、\( 10^{-35}m \)程度。小さいものを見るには、それに見合った短い波長が求められる。CERNの加速器で実験が行われているように、これには高いエネルギーが必要になる。プランク長ほどのものを見るには、ブラックホールができる程度のエネルギーが必要とされている。

なぜ点ではなくひもなのか

電磁力の例をもとに話を進める。
電磁力の大きさは以下のように表されていた。
 \(F = k \dfrac{q_1 q_2}{r^2}\)
重力も同様だが、ポイントは力の大きさが距離の二乗に反比例するところにある。

力が場と粒子の相互作用である以上、電子は自身が作り出した場からも影響を受けるはずである。
このとき、電子が大きさのない点だとするとその距離はゼロであり、受ける力の大きさは無限大になる。力の大きさ、つまりエネルギーが無限大ならば\(E=mc^2\)より電子の質量も無限大ということになるが、それは現実に合っていない。
この矛盾をクリアするため、電磁力では繰り込みという手法が使われてきた。これは、観測事実に合うように、電磁場から受けるエネルギー以外の電子の固有質量をマイナス無限大と便宜上置いて相殺することで有限の値になるように調整するというものだ。これは、実際にはより細かい構造がある場合に、そこを一旦ブラックボックス化することに相当しており、極めて有効な手法だった。

しかし、重力を関する量子力学を考えると話が変わってくる。重力によって時間・空間が伸び縮みするため、”より細かい構造”という意味すらなくなり、これまでのように繰り込みでの対処ができない。

そこで、そもそも点ではなくひも(のように広がったもの)だと考えることで、点との距離がゼロになる、という問題そのものを消失させたのがひも理論だ。

なぜ統一理論でありうるのか

ひもの振動パターンによってさまざまな素粒子が表現できる。
超ひもは、超空間で振動していると考えられている。超空間とは、通常の数による座標軸だけでなく、グラスマン数による座標軸も持つ空間のことを言う。
このときに、通常の数の方向に振動している⇒ボーズ粒子、グラスマン数の方向に振動している⇒フェルミ粒子になる。そして、ひもがどれだけの節を持っているか、振動モードの違いによって異なる素粒子を表現できる。
何よりも、(最小モードで振動する、閉じた)ひもが、ひも同士の間で発生・吸収されることによって質量の積に比例する力が発生するという、重力を説明可能な理論である。

なぜ11次元なのか

超ひも理論によると世界は11次元だ、と言われている。
これは光子の質量はゼロだ、という特殊相対性理論の要請に基づいている。
11次元が出てくる流れを追っていこう。
まず、光子に必要なエネルギーを以下のように分解する。
 (光子のエネルギー)=(ひもの量子ゆらぎのエネルギー)+(ひもの振動エネルギー)
各項について。
光子のエネルギー:
 質量がゼロなので、光子のエネルギーはゼロになる。
ひもの量子ゆらぎのエネルギー:
 不確定性原理に基づくと、位置と速度を両方確定することはできない。
 最低エネルギーの状態を考えると、さまざまな振動モードが重ね合わさった状態になる。
 さらに、横波を前提として、振動可能な方向は次元数-1だけある。
 また、超空間でのグラスマン数方向への振動も考えると、3倍のエネルギーが必要になる。
ひもの振動エネルギー:
 発生させたい振動モードに対応する、量子ゆらぎのエネルギーの倍になる。
 光子は節が一つの振動モードに対応する。

以上より、次元の数を\(D\)として
 \( 0 = 3(D-1)(1+2+3+…)+2 \)
という関係が必要である。
ここで、(1+2+3+…)は、ゼータ関数を用いて\( \zeta(-1) \)を考えると\( -\frac{1}{12}\)になる。具体的には次節参照。
これを解くと\(D=9\)となる。これに時間を加えて10次元、さらにひもの結合定数を上げると次元が一つ上の理論に帰着することから11次元、となる。ごまかしたが、11次元の超重力理論を10次元にコンパクト化したときの半径が、結合定数を大きくすると半径も大きくなる=11次元に戻っていく、ということらしい。このとき、次元があがるので、1次元のひもは2次元の膜になる。
ともあれ、これで11次元という数が現れた。

超ひも理論の5つのタイプ

さて、ここまで超ひも理論と一口に言ってきたが、実際には5つのものが考えられている。
閉じたひもと開いたひもの両方を考えるタイプ1、閉じたひもだけを考えるタイプ2が2種、閉じたひもの中でも時計回りと反時計回りとで別の空間で振動していると考えるヘテロティック理論が2種、の計5個である。
これらは全て矛盾するものではなく同じ理論の別の現れ方であると考えられている。D-ブレーンと呼ばれる曲面を横切っている閉じたひもを考えると、これは曲面上に端点を固定した開いたひもと同じではないか。そう考えると結びついていく。

計算の詳細

使用する関係式

ガンマ関数\( \Gamma(n) \)は以下の性質が成り立つ。
 \( \Gamma(n) = (n-1)! \)
 \( \Gamma( \frac{1}{2} – n) = \frac{(-2)^n}{(2n-1)!!}\sqrt{\pi} \)
\(!!\)は二重階乗と呼ばれるものだが、\(1!!=1\)であることしか今回は利用しないのであまり気にしなくて良い。

ゼータ関数\( \zeta(s) \)は以下の関数である。
 \( \zeta(s) = \sum\limits_{n=1}^\infty \dfrac{1}{n^s} = \dfrac{1}{1^s} + \dfrac{1}{2^s} + \dfrac{1}{3^s} \cdots \)
\(s=2\)の場合、オイラーによって、以下に収束することが知られている。
 \( \zeta(2) = \dfrac{\pi^2}{6} \)

また、このゼータ関数は、以下の関数\( \xi(s) \)を用いることで、
 \( \xi(s) = \pi^{-\frac{s}{2}} \Gamma(\frac{s}{2})\zeta(s) \)
 \( \xi(s) = \xi(1-s) \)
という関係を持つことをリーマンが示している。

具体的な計算過程

あとは淡々と計算していけばよい。
いま求めたいのは\( \zeta(-1) \)にあたる。これを出すためにまずはリーマンの関係式を用いることで
 \( \xi(2) = \xi(1-2) \xi(-1) \)
ここで\( \xi(s) \)を\( \zeta(s) \)による表記にすると
 \( \pi^{-\frac{2}{2}} \Gamma(\frac{2}{2})\zeta(2) =\pi^{-\frac{-1}{2}} \Gamma(-\frac{1}{2})\zeta(-1) \)
と変形できる。ここに、
 \( \Gamma(1) = 0! = 1 \)
 \( \zeta(2) = \dfrac{\pi^2}{6} \)
を代入して整理すると、
 \( \dfrac{\pi}{6} = \pi^\frac{1}{2} \Gamma(-\frac{1}{2} ) \zeta(-1) \)
あとは
 \( \Gamma(-\frac{1}{2} ) = \Gamma(\frac{1}{2} -1) \)
だから、ガンマ関数の性質で\( n = 1\)とした
 \( \Gamma(-\frac{1}{2} ) = \frac{(-2)}{(2-1)!!}\sqrt{\pi} = -2\sqrt{\pi} \)
を代入して整理することで、
 \( \zeta(-1) = -\dfrac{1}{12}\)
を得る。

参考図書など

<主な参考>
1.広瀬立成「図解雑学 超ひも理論」
 https://www.amazon.co.jp/dp/4816342486
 超ひも理論というよりは素粒子論の概略としてまとまっている。

2.大栗博司「大栗先生の超弦理論入門」
 https://www.amazon.co.jp/dp/4062578271
 安定のブルーバックス。弦理論の説明や発展の歴史に詳しい。

<その他>
3.Youtube のもと物理愛「【宇宙を支配する6つの数】次元(超ひも理論・異次元)」
 https://www.youtube.com/watch?v=rHdsFBS71Jc
 このあたりのお話の素晴らしい説明。

4.ひっぐすたん
 https://higgstan.com/
 素粒子はかわいい。

5.佐藤光「群と物理」
 https://www.amazon.co.jp/dp/4621300849
 対称性の関連で少々。\(SU(2)\)や\(SU(3)\)の数学的な内容に詳しい。

6.日本物理学会誌「M理論とは何か」
 http://hep1.c.u-tokyo.ac.jp/~kazama/Mtheory.pdf
 超弦理論を統合したM理論についての解説。
 未読だが一応記録。大栗先生の超弦理論入門を読むと、ある程度のキーワードは登場している。

コメント

タイトルとURLをコピーしました