前回登場した4つの力を統一して記述できるようにしよう、という試みについてまとめる。
電磁力と弱い力の統一理論
ゲージ対称性
ここからのキーワードは「対称性」になる。対称性という言葉からは、左右対称などの図形的な対称をイメージすることが多いと思われるが、ここでは「不変性」と読み替えた方がわかりやすい。対称であるということは、何等かの変換に対して不変ということである。物理で登場する「ゲージ対称性」は、位相や座標などの尺度を変えても方程式の形は変わらない、ということを指す。
例えば、電磁力について見てみよう。Maxwell方程式
\( \mathrm{div} \boldsymbol{B} = 0 \)
\( \mathrm{rot} \boldsymbol{E} = -\dfrac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t} \)
は、ベクトルポテンシャル\( \boldsymbol{A} \)、スカラーポテンシャル\( \varphi \) を用いて次のように表記できる。
\( \boldsymbol{B} = \mathrm{rot} \boldsymbol{A} \)
\( \boldsymbol{E} = -\dfrac{\partial \boldsymbol{A}}{\partial t} – \mathrm{grad} \varphi \)
この\( \boldsymbol{A} \)と\( \varphi \)を、任意の時間と位置の関数\( f \)を使って、以下の\( \boldsymbol{A}’ \)と\( \varphi’ \)に置き換える。
\( \boldsymbol{A}’ = \boldsymbol{A} + \mathrm{grad}f \)
\( \varphi’ = \varphi – \dfrac{\partial f}{\partial t} \)
この変換をしてもMaxwell方程式の形はかわらない。(\( \mathrm{rot} \mathrm{grad}f = 0 \)より簡単に確認できる)
このような変換に対して方程式が不変であるという性質を、ゲージ不変性、またはゲージ対称性と呼ぶ。
このゲージ対称性が成り立つためには、ゲージ粒子の質量がゼロであることが要請される(質量項がラグランジアンにあると対称性が維持できなくなる)。しかし、弱い力のゲージ粒子であるウィークボソンは質量をもっている。この矛盾の解消が統一理論に向けた課題となった。
対称性の破れ
ここで導入されたアイディアが「(自発的)対称性の破れ」である。
本来的には対称性が成り立っているが、現在目に見えている状態ではそれが覆い隠されているのだ、という発想だ。ウィークボソンについていえば、本来的には質量はゼロだが、低エネルギーの状態では質量をもっているだけだ、という主張になる。
突飛な内容に思えるかもしれないが、自発的対称性の破れはそれほど不自然なものではない。
例えば棒磁石を考えてみよう。棒磁石を高温にすると磁力を失う。これは原子がランダムに動いている、つまりは対称性を獲得している状態に相当する。ここから冷えていくときに何かのきっかけで部分的に一方向を向くと、それに伴ってほかも同じ方向に揃おうとして、ついには全体として磁力を取り戻していく。これが自発的対称性の破れに相当する。
他にも、立っている鉛筆は(上から見ると)対称的な形をしているが放っておくと倒れてしまって対称的でなくなる、という例などでも説明される。
ともあれこのアイディアにより、ワインバーグ・サラム理論は高エネルギー状態では光子とウィークボソンは同じものとなり、電磁力と弱い力との統一ができることを示した。
電磁力・弱い力と強い力の大統一理論
さらに、電磁力・弱い力に加えて、強い力も統一しようという試みも行われている。
ただし、現時点では確立には至っていない。
統一に向けた基本的アイディア
強い力は、電磁力と比べても強い。しかし、実は以下の特徴がある。
電磁力は近づくほど荷量が大きく見える(遮蔽効果)。これはなぜか。電子のごく周辺では光子/電子/陽電子が常に放出・吸収されている。そして中心の電子周辺には陽電子が比較的集まる。その結果、外側から見ると、(陽電子と一部が打ち消しあっていることから)本来の荷量よりも小さく見えている。より近づくことによって遮蔽する陽電子が少なくなることから、荷量が大きく見えるようになる。
一方で強い力は近づくほど荷量が小さく見える(反遮蔽効果)。今度はクォークのごく周辺でグルーオン/クォーク/反クォークが常に放出・吸収されている。ここで、光子は電荷をもたなかったが、グルーオンはカラー荷を持っている。そしてそのカラーは中心のクォークと同じである。この影響が大きく、外側から見ると、本来の荷量よりも大きく見えている。
この特徴から、より近いスケールにしていけば強い力と電磁力の大きさも同等になり、力の統一ができるのではないか、という発想が出てくる。なお、より近いスケールで観測するということは、より高エネルギーであることに相当する。
しかし実験の結果、これだけでは力は一致しないことがわかった。そこで現在は超対称性を導入した理論が提示されている。
超対称性、超空間
超対称性では、素粒子の大きな分類である、フェルミ粒子(クォークなどの物質粒子)とボース粒子(光子などのゲージ粒子)とを、「超空間」における同じ「超粒子」の別状態であると考える。
「超空間」とは何か。これは通常の座標に加えて、グラスマン数と呼ばれる特殊な代数を座標に持たせた空間である。グラスマン数は\( a × b = – b × a \)、従って\( a × a = 0 \) となるものである。
通常の数であれば同じ数を何度も掛けていくことができるが、グラスマン数は一度かけるとゼロになってそれ以上かけることができない。この特徴が、何度も重ねられるゲージ粒子と、一つしか存在できない物質粒子とにそれぞれ対応している。
この超対称性を考慮すると、3つの力が一致することがわかっている。
ただ、この理論からは超対称性粒子と呼ばれる粒子(光子に対応するフェルミ粒子であるフォティーノなど)の存在が予言されるが、まだ発見されていない。
超ひも理論は、この超対称性を取り入れた理論である。次回は、なぜ急にひもが登場するのか、というところから始める。
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